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| アイデックスでは、臨床病理診断医と組織病理診断医が密な連携を保ちながら、臨床現場から提供された標本を検査しています。
このコーナーでは、一つの疾患を複数の異なる検査方法によって評価することの有益性が特に強く感じられた症例の中から、毎月1症例を取り上げてご紹介してまいります。
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第十四回 犬の線維付属器異形成(2011年6月)
今月は、比較的発生頻度の高い、皮膚の非腫瘍性病変である「線維付属器異形成」を紹介します。この病変は、組織学的には異形な皮膚付属器(毛包、皮脂腺、汗腺)構造を特徴とする増殖性病変で、腫瘤状に発生し、犬の四肢末端で多くみられます。
症例
雑種犬、12歳、去勢雄
左後肢の下腿遠位から中足骨部の背側皮膚に形成された約12×6×10cmの腫瘤が外科的に切除され、病理組織学的検査に供されました。この病変は4年前から観察されていました。
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写真1: 腫瘤の肉眼 下腿遠位から中足骨部の背側皮膚に形成された腫瘤です(矢印)。筋肉との固着性はありませんでした。
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写真2:ホルマリン固定組織の割面 腫瘤は皮膚~皮下組織に形成された比較的境界明瞭なやや軟性の組織です。割面には角質を豊富に含んだ嚢胞構造(円内)そして線維・脂肪様の組織(☆印)が観察されます。
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この病変の組織写真を見る前に、正常な皮膚付属器の組織写真を紹介します。
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写真3:皮膚付属器の正常組織、HE染色 正常な有毛部皮膚では、folliculo-sebaceous-apocrine unitと呼ばれる毛包、皮脂腺そしてアポクリン汗腺が1つの皮膚付属器の単位として捉えられています。正常な皮膚付属器の構造は、毛包を中心にして、周囲に皮脂腺(☆印))とアポクリン腺(矢印)が秩序よく配列しています。一般的に汗腺は皮脂腺より深部に位置しています。皮脂腺も汗腺も毛包漏斗部に開口しています。
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次に、この症例の組織写真を紹介します。
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写真4:写真2の○印の弱拡大、HE染色 嚢胞構造は分化度の高い角化重層扁平上皮(矢印)で構成されています。内腔には多量の角化物(☆印)が含まれています。
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写真5:写真2の☆印の弱拡大、HE染色 成熟した線維・脂肪間質結合組織(*印)が豊富に形成されており、その中に、構造が歪んだ皮膚付属器(矢印)が観察されます。
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写真6:写真5の☆印の弱拡大、HE染色 コラーゲン結合組織の中に、嚢胞状に拡張した毛包構造(☆印)と、その回りに無秩序に散在する皮脂腺小葉(矢印)が観察されます。
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写真7:HE染色 角質を含んだ嚢胞状の毛包構造が破裂すると、角質が異物となって、好中球とマクロファージを主体とした異物性の炎症巣が形成されます。矢印は異物巨細胞です。
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<病理組織診断>
線維付属器異形成 Fibroadnexal dysplasia
(同義語:線維付属器過誤腫 Fibroadnexal hamartoma)
<解説>
線維付属器異形成は境界明瞭な結節性病変で、異形な毛包皮脂腺成分とコラーゲン結合組織で構成され、時にアポクリン腺や脂肪組織も混在します。小型の病変は真皮に限局し、大きくなると皮下組織にかけて形成されます。病態発生には様々な説がありますが、炎症過程の沈静化に続く瘢痕形成期に皮膚付属器が巻き込まれて形成されるとも考えられています。好発部位はプレッシャーポイントと呼ばれる体重負荷が持続する部位で、四肢末端が最も多く見られます。その他にも、体幹や頭部にも発生します。角質を含んだ嚢胞状の毛包が破裂すると、結合組織に露出した角質が異物となって二次性の無菌性炎症を引き起こすことがあります(写真7と13)。それによって、臨床的に病変が急激に拡大したように見えることがあります。外科摘出後の予後は一般的に良好です。
このような複雑な構造を形成する病変から針生検(FNB)が行われると、細胞学的には異型性のない角化上皮細胞や角質、皮脂腺、(時に)汗腺そして様々に炎症細胞が観察されます。線維結合組織は硬く針生検では採取されにくい組織ですが、少量の線維芽細胞やコラーゲン線維が観察されることもあります。脂肪細胞が混在していれば、成熟した脂肪細胞も観察されるでしょう。
下記の写真は、FNBによる細胞診において観察されることが予測される細胞群です。
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写真8:細胞診・皮脂腺・ギムザ染色 多数の皮脂腺細胞が集塊状に採取されています。これらの細胞は、中心性の小型濃染核と、泡沫状の広い細胞質を有しています。
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写真9:細胞診・アポクリン腺・ギムザ染色 アポクリン腺上皮細胞が集塊状に採取されています。これらの細胞はややクロマチンに富む類円形核と、好塩基性の細胞質を有しています。
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写真10:細胞診・角化物・ギムザ染色 角質細胞は核が消失した多角形の細胞で、細胞質は水色~濃い紫色に染色されます。
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写真11:細胞診・線維芽細胞・ギムザ染色 線維芽細胞が孤在散在性に採取されています。これらの細胞は、楕円形の核と、境界の不明瞭な紡錘形の弱好塩基性細胞質を有しています。線維芽細胞が産生するコラーゲン基質(右下の好酸性無構造物)が観察されることもあります。線維結合組織は硬いため、針生検では採取されにくい組織です。
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写真12:細胞診・脂肪細胞・ギムザ染色 脂肪細胞は大型の細胞で、細胞質の辺縁に位置する小型濃染核と透明で膨らみのある細胞質を持ちます。
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写真13:細胞診・角質に対する炎症・ギムザ染色 水色に染色される角質を取り囲んで多数の好中球とマクロファージが集簇しています。
これは嚢胞状の毛包構造が破裂し、角質に対して炎症が起こっていることを示唆します。
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末尾になりましたが、肉眼写真の使用を快諾いただいた病院様にはこの場を借りて深謝いたします。
参考文献
- Gross TL, Ihrke PJ: Follicular tumor: Skin Disease of the Dog and Cat. Blackwell, 2005, pp605-607.
文責:下山 由美子(獣医師、アイデックス ラボラトリーズ 検査サービス事業部)
注意:この情報は獣医師向けに書かれたものです。
一般の飼い主様がこれを元に判断することは避けてください。
お問い合わせ:アイデックス ラボラトリーズ 検査サービス事業部 tel:0422-71-0880
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