
早期の診断で、犬と猫の腎臓病のより効果的な管理が可能になります。
猫では3頭に1頭1、犬では10頭に1頭2が一生のうちに慢性腎臓病(CKD)を発症するといわれており、特に猫では主要な死因のひとつです。
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は既存の検査よりも早期にCKDを検出するきっかけとなる画期的な腎機能検査であり、
腎臓病への早期介入と効果的な管理をサポートします。その有用性からIRISの最新のCKDガイドラインにも追加されました。
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)はアミノ酸のアルギニンがメチル化されたもので、蛋白分解の過程で循環血中に放出され、そのほとんどが腎臓から排泄されます。
その主な特徴として下記の3つが挙げられます。
資料[New!] 甲状腺機能亢進症の猫:IDEXX SDMAはクレアチニンより信頼性の高い腎機能の指標です(2017.10.03 更新版) 腎臓の新しい検査 IDEXX SDMAの概要 (2017.1.10 更新版)
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SDMA についてよくあるご質問
SDMAの背景
対称性ジメチルアルギニン(SDMA)はアミノ酸のアルギニンがメチル化されたものです。SDMAは、生物活性のある構造異性体の非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)と共に、核内でL-アルギニン残基がメチル化されることで産生され、さらに加水分解された後のちに細胞質に放出されます。SDMAは腎臓から排泄され、一方、ADMAは大部分が代謝されます。
SDMAには3つの主な特徴があります:
- SDMAは腎機能のバイオマーカーであり、糸球体濾過率(GFR)と非常に高い相関性があります。
- SDMAは慢性腎臓病(CKD)においてクレアチニンより早期に上昇します。SDMAは、平均的には腎機能が40%失われた時点で上昇ますが、早い場合には腎機能が25%喪失した時点で上昇を示します。一方、クレアチンは、腎機能が75%失われるまで上昇しません。SDMAを検査に取り入れることで獣医師は、既存の検査と比較して、数カ月から数年も早くCKDを診断することが可能になります。
- SDMAは腎機能に特異的です。クレアチニンとは異なり,SDMAは筋肉量に影響をうけません。また、SDMAは腎臓に影響が無い限り、他の疾患の影響をうけません。肝臓病、心血管系疾患、炎症性疾患および内分泌疾患がこれに含まれます。
いいえ、アイデックスが発見したのではありません。SDMAが腎臓のバイオマーカーとなり得るかを評価するため、これまで沢山の研究が行われ,さらに論文として報告されています。
アイデックスは、SDMAをコマーシャルベースの検査として開発しました。SDMAの測定はアイデックス外注検査センターが有する高処理化学分析機器を用い、免疫測定法で行われます。これによりSDMAの測定結果は、定期的な血液化学検査の1項目として、クレアチニンとともに報告することが可能となります。
CKDは犬および猫でよくみられる疾患ですが、既存の検査では腎臓病の早期発見が難しいことが広く知られています。そこでアイデックスは、より良い獣医療をサポートし、ペットの健康を促進するためのひとつのツールとして本検査を開発しました。SDMAは腎疾患の早期発見(多くの場合は臨床兆候がみられる前)を手助けする有力なツールとなります。さらにアイデックスでは、SDMAを日常の血液化学検査項目に加えることが重要と考えています。
SDMAの背景とその他の腎臓に関する診断法の比較
7. SDMAはどのように糸球体濾過率(GFR)に関連しているのですか?
SDMAは腎臓から排出されます。従って、腎機能またはGFRが低下すると、SDMAは増加します。研究によるとSDMAとGFRは非常に高い相関性を示します(猫でR2 =0.82、犬でR2 =0.85)。クレアチニンとともにSDMAを測定する利点は、クレアチニンは一般的にGFRが75%減少した時点で参考基準範囲を超えますが、SDMAはGFRが平均40%減少した時点で上昇することにあります。場合によっては、SDMAの上昇はさらに早く起こり、GFRが25%減少、つまり腎機能が25%失われた時点で上昇を示すこともあります。
GFRの推定および腎機能を評価するためのゴールドスタンダードはGFRクリアランステストです。しかし、GFRクリアランステストはコストも高く、臨床で日常的に行うことは困難です。
- クレアチニン:CKDの犬よび猫ではSDMAはクレアチニンより早期に上昇します。SDMAは腎機能が40%失われた時点で上昇するのに対し、クレアチンは腎機能が75%失われるまで上昇しません。また、クレアチニンは筋肉量に影響されますが、SDMAは影響されません。したがって、全身状態の悪い動物の場合は、SDMAは腎機能に対するより鋭敏な指標となります。
- BUN:BUNもSDMAと比較すると、発現の遅い腎機能のマーカーです。また、BUNは肝疾患による産生低下や高タンパク食、消化管内出血に伴う増加により影響を受けますが、SDMAはGFRの変動によってのみ変化します。
- 尿比重:尿比重は通常、生理的に変動し、尿を採取した日の飲水量や採取した時間によっても影響を受けます。尿濃縮の低下は腎疾患に特異的ではなく、糖尿病、肝臓病およびクッシング病などでも起こります。一方、SDMAは腎機能の変化のみに影響されます。
- UPC:尿蛋白クレアチン比(UPC)は尿検査のひとつです。一時的な蛋白尿、尿路感染、炎症または重度の血尿が除外された場合に、尿中の蛋白をより正確に定量するために使用します。疾患の主なターゲットが糸球体である場合、また尿細管間質性疾患も症例によって、UPCはクレアチニンよりも早期にCKDを検出することがあります。しかしCKD、特に早期のCKDでは、SDMAは上昇を示しますが、UPCは正常範囲内であることが一般的です。腎前性および腎後性の蛋白尿が除外されるのであれば、UPCが0.5(犬)および0.4(猫)を超える継続的な蛋白尿は、糸球体または尿細管間質性のCKDの所見と一致します。一方、UPCが2.0を超える場合は、糸球体疾患を強く示唆します。蛋白尿が認められる動物では、UPCは治療への反応および疾患の進行をモニターするために使用します。
- 微量アルブミン尿:微量アルブミン尿は尿検査のひとつです。これはあるタイプのCKDに対する早期マーカーとなります。一般的に生理的な要因によって一過性の上昇を示すことがあります。また、尿路の炎症でも陽性になるため、尿路感染、炎症または重度の血尿を除外するための追加検査が必要です。微量アルブミン尿が継続してみられ、さらに偽陽性の要因が除外された場合、微量アルブミン尿は糸球体疾患の最も早い指標です。早期の糸球体疾患でGFRが参考基準値範囲内にある場合は、SDMAは上昇しないことが想定されます。また微量アルブミン尿は、全ての症例で当てはまる訳ではありませんが、尿細管間質性CKDにおいて早期の指標となることもあります。さらにこの場合でも、GFRが低下するにつれて、SDMAは上昇します。微小アルブミン尿が陽性の場合は、必ずUPCを測定して定量値を確認する必要があります。特に早期のCKDでは、微量アルブミン尿検査とUPCの多くは正常です。
9. CKDの診断において、SDMAはクレアチニンの代替になりますか?それとも、SDMAと併せてクレアチニンも測定すべきなのですか?
SDMAとクレアチニンは補完的なものです。SDMAはクレアチニンを代替するものではなく、腎機能を評価するための感度の高いもう1つのツールです。完全な腎臓評価は、病歴や身体検査だけでなく、CBC、SDMAを含む血液化学検査および完全な尿検査(外観、尿試験紙による評価および顕微鏡検査)を含むミニマムデータベースの評価によって行わなければなりません。International Renal Interest Society(IRIS)のCKDステージ分類にはクレアチニンが必要です。クレアチニンはCKD症例の臨床的評価において依然として重要です。
10. SDMAは蛋白尿が現れる前に上昇しますか?SDMAは蛋白尿と相関がありますか?
SDMAはGFRの優れたマーカーであり、血清を使用した検査です。SDMAは原因にかかわらず、腎機能が低下するにつれて上昇します。つまり腎機能低下を高感度に、かつ特異的に検出するための検査です。SDMAとは異なり、微量アルブミン尿検査およびUPCは尿を用いた検査です。これらは尿中の蛋白質を検出するものですが、これらの蛋白質は尿路系のどこにでも由来する可能性があります。従って、偽陽性の原因となり得る尿路感染や他の炎症病変、また重度の血尿を除外することが重要です。一過性の上昇は、激しい運動、発熱、極度の低温や高温への暴露、ストレス等の生理的要因により生じることがあります。糸球体腎症の症例の場合は、GFRが顕著に低下するかなり前から蛋白尿を示す可能性があります。したがって、SDMAは病期が進行してGFRが低下するまでは、正常なこともあります。しかし、尿細管間質性疾患の場合、軽度の蛋白尿しか示さない、または全く蛋白尿を示さない場合もあります。このようなケースでは、SDMAがCKDの早期指標となるでしょう。
11. SDMAの感度は高すぎるのではないですか?SDMAは微量アルブミン尿検査と同様に検査の落とし穴はないのですか?
微量アルブミン尿は非常に少量の尿中蛋白を検出します。微量アルブミン尿検査における陽性結果は、生理的要因と病的要因の両者に起因します。一過性の生理的な上昇は、発熱、激しい運動、発作、極端な高温または低温への暴露やストレスなどにより起こる可能性があります。病的な蛋白尿は尿路のどの部分からでも発生する可能性があります。特に尿路感染がある場合は、偽陽性が良く認められます。従って、尿路感染、炎症または重度の血尿を除外するための追加検査が必要になります。感染性の原因および泌尿器系の炎症が除外され、さらに微量アルブミン尿が継続する場合は、早期の腎臓病が示唆されます。腎臓由来の微量アルブミン尿は糸球体腎症により生じ、尿細管間質性疾患では生じる場合とそうでない場合があります。一方、SDMAは血清におけるGFRのバイオマーカーであり、腎臓病の病因にかかわらず、GFRが40%喪失された時点で上昇します。
12. 腎機能不全の確認におけるSDMAの感度および特異性はどのくらいですか?
猫の報告によると、ゴールドスタンダードのGFRに対するSDMAの感度と特異度は、それぞれ100%、91%とされています。この研究では2例の「偽陽性」が示されています。この2症例の猫では、実際には25%のGFRの低下が認められました。この研究では腎臓病の定義として30%のGFR低下をカットオフ値として設けていたために、2例は偽陽性と評価されたのです。
13. 参考基準範囲の上限を低くすれば、クレアチニンはSDMA同様に優れているのではありませんか?
いいえ、上記の猫の報告によると、その施設で設定した参考基準範囲(0.7-2.1mg/dL)を使用した場合、クレアチニンの感度はわずか17%でした。しかし、IRISのステージ1におけるクレアチニンのカットオフ値である1.6mg/dLを使用した場合でも、感度は50%まで上昇したのみです。SDMAはGFRとより良好な相関があり、クレアチニンよりも感度が高いといえます。アイデックスにおけるクレアチニンの参考基準範囲はClinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)のガイドラインに準拠し、臨床的に健康な犬および猫のデータに基づいて設定しています。SDMAの参考基準範囲も同様に設定されています。
14. 組織学的診断に基づく腎臓病の分類(例えば、糸球体性vs.尿細管性、膜性増殖性糸球体腎炎vs.その他の糸球体腎炎)とSDMAとの間には関連がありますか?
SDMAでは腎臓病の原因や損傷部位を特定することはできません。SDMAは病変の部位や病因にかかわらず、全体的なネフロンの機能を反映し、GFRが減少すれば上昇します。
SDMAの基礎知識
SDMAは腎臓病の犬と猫でクレアチニンより早期に上昇します。また、筋肉量に影響されないので、老齢や痩せた動物においてもより正確に腎機能を評価することができます。